黒歴史小説 冬の蝉

1-4


 小さな公園で子供達がゲームの端末機を持って遊んでいる。
風見(かざみ)君、僕のモンスター、レベル高いよ。どれか交換しない?」
「うん、いいよ。え~っと、じゃあ、僕はこれをあげるから、こっちのモンスターちょうだい」
「OK、商談成立!」

 ゲームの端末機にコードをさして、液晶画面を確認しあう。
 どこの公園でも見られる最近の子供達の遊ぶ姿だ。
 だが、それを見て滑稽に見えたのか、一ノ瀬 守はクスクスと笑っている。
 それに気がついた子供達は守を不気味そうな目で見ていた。

「なにあれ~」
「もしかして、最近ここら辺で噂の変態じゃない?」

 噂というものは女子高生が豊富だと思われているが一番、噂が飛び交うのは小学生だといえる。
 それは物事を一つの点でしか捉えられないからだ。
 つまり、なんでも信じてしまう純粋な心の持ち主だからこその特徴である。
 
「風見君、どうする?」
「うん、気味悪いから帰ろう」
 子供達は逃げるように公園を去って行った。
「変態と間違われたか」
 守は鼻で笑うとベンチに座った。

「いきなり、現れるとはお前らしくもないな」
 さっき、公園を出たはずの少年達の一人が守の隣に座った。
「風見君、モンスターの交換はいいのかい?」
 守が嫌みったらしく言う。
「茶化すな。私も好きで小学生生活をしているのではない」
 その少年はさっきまで友達とじゃれあっていた表情とは違い、非常に落ち着いた涼しげな顔で、口調も大人が話すような喋り方になっていた。

「それで用件は?」
「ああ、おまえじゃないのか? 史樹や夕貴に俺の居場所を教えたのは」
「知らんぞ。なんだ、あいつら、お前の学校に来たのか?」
「そうだ。じゃあ、あいつらの独断でやったことなのか……」
「私を疑っていたのか? 私は仮にも保護システムだぞ。それもPXシリーズのな。まあ、一部の保護シテスムを除けばな」
 二人は声を合わせて笑った。


「で、マザーの動きはどうだ?」
「今のところ、目立った動きはないが……なにか匂うな。多分、もうお前の居場所はバレているはずだ。用心しとけよ」
「追手か。まあ、やるだけのことはやってみるさ」
 そう言うと守はベンチから立ち上がり、少年に別れを告げ、公園を跡にした。
「死ぬつもりか……守」
 風見 哲二(かざみ てつじ)、彼こそが冬の蝉の保護システムである。一見、ただの小学生であるが馬斬隊にいたところの冬の蝉をバックアップしていたのだ。計り知れない力を持っている。
 マザーから身を隠すために小学生を演じているのだ。
 組織から逃げ出した後も守と共に20以上の保護システム達を人間社会に逃がしたのである。
 その中に赤穂 夕貴、相場 史樹らも含まれている。また、彼らも人間社会に潜んでいたのだ。
 あれからもう一年にもなる。
 依然、マザーからの束縛が解けた感じがしない。むしろ強く感じる。
「私達の戦いはこれからだな」

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