【短】恋するうさぎとズルいオオカミ。
恋するうさぎ
───ガシャーン!
「どうなってんだ、この店は!」
「もっ、申し訳ありません……!」
日曜日の昼下がり。
いつもごった返す忙しいこの時間に、よりによって、トラブルが起きた。
目の前には、大声を上げる中年の男性。一応、お客様。
「客の料理にこんな虫入れやがって、ナメてんのか?」
男性が指差すお皿の中には、そこそこ大きめの黒い虫の死骸が入っている。
「そのようなことは決して……」
「なにお前、俺が嘘ついてるとでも?」
「……っ、いえ」
威圧のある声に、少し戸惑う。
けど、絶対嘘だとわかるから、引き下がれなかった。
高1からこの喫茶店"すみれ"でバイトとして働いて、1年と少し。
このクレーマーの男性の顔は、何回か見たことがある。
< 1 / 25 >