もう、離れるな 〜地味子×チャラ男の一途すぎる両片思い〜
俺が、母親と琴莉がいる病院に着いた頃、まだ太陽は上の方にあった。

結果的に言えば、母親は琴莉の病室前まで行けたけど、俺は行けなかった。

琴莉の両親が、許さなかったから。

だから俺は、母親が戻ってくるのを待った。

いつもならば、暇つぶしにスマホを触るのに、今日は何1つやる気がしなかった。

何もしたいとは、思えなかった。



雲の向こうに、何羽もの鳥がどこかへと飛び去っていった。

ちょうど俺が最後の1羽を見送った時だった。





「……オ……波音!!」





気がつくと、母親が俺の横に立ち、俺の肩を叩いていた。



「どうしたの、さっきから呼んでるのに」

「あ……」


どう説明すればいいのか困り、俺は黙るしか出来なかった。

母親は、数秒だけ俺の返事を待ってくれたが、俺が返事をする意思がないことを察したのかすぐに


「夕飯、食べましょうか」


とだけ言った。

あ、病院から俺を離す気なんだなと、思ってしまった。
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