もう、離れるな 〜地味子×チャラ男の一途すぎる両片思い〜
「は……?」

全身の体温が一気に下がった感覚がした。

母親は、すごく言いづらそうに口をモゴモゴさせながら、一口コーヒーを飲んだ。

それから、ふっと小さくため息をついてから「あのね」と話し始めた。


「琴莉ちゃん、今ICUにいるのね」

「ICU……」


ドラマによって、重体の人が運び込まれる特別な病室であることは、知っていた。


「それで琴莉ちゃんなんだけど……その…………頭をね、すごく傷ついているというか……」

「頭?」

「と言うより、顔……と言うか……とにかく、首より上の方の怪我がひどいんですって。……手とかお腹とか、足はその分そこまでじゃないらしいんだけど……」


俺は、足から少しずつ体が震え始めていた。

頭にボールをぶつけられただけで泣いていた琴莉。

一体、どれだけ怖い思いをしたのだろう。


「それで、琴莉ちゃんのお母さん……病院の先生から、写真を持ってきてくれるように頼まれたらしくて」

「何のために?」

「顔を……少しでも元に戻すために……」


そう言うと、母親は嗚咽を漏らす。

顔を戻すために、と言うことは。

今琴莉の顔は一体どんなことになっていると言うのか。

想像するだけで、俺は胸がかきむしられるような気持ちになった。


「でも……それはまだ……良いんですって……」

「まだって……」


まだ何かあるのか。

俺は、自分の唾が喉を通り過ぎる音を聞きながら、次の言葉を待った。

でも、聞きたくないと思ってもいた。

怖かった。

聞くべきじゃないんじゃないかとすら、思った。

けれど母親は容赦無く真実を俺にぶつけてくれた。



「琴莉ちゃん、脳に出血があるらしいわ。今生きていることがもう、奇跡に近いんですって」
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