もう、離れるな 〜地味子×チャラ男の一途すぎる両片思い〜
「キャー!」

「ナオ様ステキー!!」


さっきまで、怖い鬼の顔をしていた女の子たちがまた、キラキラな目に戻る。

アイツの声には、そういう力があった。

聞いただけで、とろけてしまうような、そんな声。

まるで、魔法のようだと、私は思っていた。


って……いけない!しっかりしろ、私!


これから、アレの前を通らないといけないのだから……。

まず、いつものように、しっかりとイヤホンをつける。

お気に入りの曲を流す。

いつもと同じルーチンの準備をしてから、私は勇気を出して歩き出した。


「あっ……」

「来たよ……」

女の子たちの、冷たい声がイヤホン越しに入ってくる。

でも、お気に入りの曲が、うま〜く消してくれるから、辛くない。

それから、あと一歩進んだらそっと、片耳だけイヤホンを外す。


「琴莉!おはよ」


アイツが、私に声をかけてくれるから。

名前を呼んでくれるから。

この、朝の時間だけ。

私は、こくりとうなずいてから、そっと立ち去り、イヤホンをもう1回つける。

それからすぐ、曲の音量を上げる。

そうすれば、後ろで誰が何と言おうと、私の心には届かない。

そうすることで、私は私を守りながら、アイツの声をアップデートすることができる。

それが私、佐川琴莉の朝のルーチン。

私のお気に入りの曲は、アイツのお気に入りの曲。

そして私は……アイツに片想いしてから、もうすぐ14年になる。
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