よるの数だけ 守ってもらった


走り高跳びという競技と鳥羽そら(わたし)子は、この狭い田舎町の人たちにとって、切っても切れない関係に見えるらしい。


「そら、最近調子どーなの?大会近いだろ」


この家に来る前に何人に言われたかわからないつまらない台詞を暈けた声でつぶやくさね先輩に、ため息を喉の奥に押し込んだ。


「ふつう」

「ふつうが一番難しいのにそらはいつもふつうが上手いんだよな」


さね先輩が思い返したであろう“いつも”は彼が卒業するまでのわたしたちで、今ではない。

曖昧に笑みを返すと、ふいに髪を耳にかけられた。

何かと思った。



「髪伸びたな」


邪魔に思うことも、切る気力もなくなったからだ。


「長いと笑ってんのが見えにくい」



この町に戻ってきてからのさね先輩は、
もうずっと笑っていない。


本当はわたしの笑っているところなんて見たいと思っていないくせに。

当て付けのように会いに来て、責めるみたいに抱くくせに。


わたしだって。

わたしだって、さね先輩の知らないところで、……。



「…そんなことどうでもいいから、はやくしようよ」

「淡白だなー、そらちゃんは」



本当のこと(、、、、、)を全部知ったら、さね先輩はようやく笑うんだろうなあ。

そんなの、絶対に、ゆるさないけれど。


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