よるの数だけ 守ってもらった


首の出た髪型が、気に入らない。


「わたしのことより自分のことに集中しなよ。隼奈の記録、イチナナニでしょ。今の時間でもう1回跳べたよ」


我ながら嫌味ったらしい。
隼奈に対して先輩の余裕なんて事故の前ですら無かったんだから、仕方ないでしょ。

部活中からよく見ていた窮屈そうな表情に羨望にも似た苛立ちが込み上げてくる。



「事故の後遺症は無いんですよね?」


親も、顧問も、友人たちも、他校のライバルも…みんながそう言う。主治医でさえも。


「なのにどうして。このまま自己ベスト更新できなくていいんですか?」


容赦のない刃物みたい。

車にぶつかられた時より、ずっと痛い気がする。



1メートル74の透明な壁。

それはたぶん、あの事故の瞬間に越した。

あのまま死ねたら良かったのに。せめてこの脚が動かなくなれば、良かったのに。



「そら子先輩はただ逃げているだけ――――」

「どんな理由を作り上げようと人の勝手だよ」


自分だって「いつまで休むのか」聞いてきたくせに、笑える。

弱っちいはずなのに。自分のことは何も言い返さないのに。口を挟んでくるなんて、本当に笑える。


「行こう、鳥羽さん」

「…べつに言われなくても行くし」


動かなかった足が、動いた。

進んでいるのか後退りしているのかは、自分でももうよくわからないけれど、如月初雪はいつの間にか隣を歩いていた。


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