よるの数だけ 守ってもらった



“明けない夜はない”


どこかで聞いたことのあるその言葉が大嫌いだ。



それは事故も何も関係なく、以前からそうで。


いつも真っ暗な闇のなか。
支柱に留められたバーだけが存在していて。

それは目標の高さに合わせていたはずなのに知らず知らずに下に降りているような気がして。



「ねえ、人の勝手だ…っていつも思ってんの?」


下駄箱にローファーを押し込みながら尋ねると、弾かれたように顔を上げた。

いつも顔に被さる白髪が払われて、オッドアイが姿を現す。


気持ち悪いなんてとんでもない。
ミナ好みな顔立ちをしていると思う。

何より、時々はっとするほど、真剣な眼差しを向けてくるから変な勘違いをしそうになるよ。



「僕は、本当のことは、否定できない」


べつに噂の真相を知りたいわけじゃなかった。

興味もないし、このひとのことは、わたしの勘定に入っていない。


「嘘は吐きたくないんだ」



格好つけながら、

わたしのことを、一刀両断する。


そんなひと言だった。

きっとこのひとはあの言葉を、喩えば小説か何かで出会ったら、宝物のように憶えているんだろうね。



噂通りの日々に闇を見ずに、
探って、掴んで、跳び越えていく。


そんなふうにわたしとはかけ離れた生きかたをしていくんだろうね。

何処にも行かせたくなくて、此処でキスでもしてやろうかと思った。


莫迦莫迦しくってやめた。


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