よるの数だけ 守ってもらった
組んだ腕に引かれながら歩いていると、見ないようにしていた校庭から「そら子」と聴き慣れた声で呼ばれた。
弾かれたように見るとそこにはさね先輩がいて、正直、本当に、ものすごく愕いてしまった。
だってさね先輩は卒業してから、この町の外で大学生になって、そこで夢に破れて帰ってきたから。だから、もう、ハイジャンプなんて見たくないんじゃないかなって、思っていたから。
だから、事故のことも、部活に出ていないことも、それ以外のことだって全部、知られるはずないって、
「満実先輩だ!お久しぶりです!」
「ああ、ミナちゃん。久しぶり」
軽いあいさつを返しつつ、視線はもうわたしに向けられていた。
「脚、もう、大丈夫なんだよな…?」
事故のことも、完治していることも、後遺症はないことも、誰かから聞いて、それでいてどうして練習してないんだって問いかけを含んだ陳腐な台詞。
自分の口から何の言葉も出てこなくて、笑いそうになった。
それ以上に、泣きそうになった。ぐっと堪えた。
「聞いてくださいよ満実先輩。そらってば、事故で入院してるうちに高跳びに飽きちゃったみたいなんですよー。もったいないですよね、期待の星だったのに」
その呼び名の代替品なんていくらでもいる。
「でもおかげで放課後遊びに付き合ってくれるようになってウチとしてはうれしいんですけどね!」
ミナの遊び相手だって、本当はたぶん、わたしじゃなくたって良い。