よるの数だけ 守ってもらった
「そうなんですよ、さね先輩」
わたしはさね先輩とはちがう。
だから、お願い。おねがい、だから。
「ただちょっと飽きちゃっただけで、わたし、跳べるんです。ははっ。ほんとに、ぜんぜん、ぜんぜん前みたいに、跳べる…同じように跳べるから……っ」
だからずっとわたしを見ていて。
「そっか、良かった。隼奈ちゃんもさっき自己ベスト更新したみたいだし、ふたりとも、本当に凄いよ」
飽きた、なんて言うなよとか。
練習してないなら跳べないだろ、とか。
事故は、本当に大丈夫だったのかとか。
言ってくれたら目が醒めた気がする。
だけどそんなこと以上に彼にとって “跳べるわたし” がふつうであって、
“跳べるわたし” と “跳べる誰か” は同じで。
どれでも都合の良い逃げる理由のひとつなことを悟って、全身から熱とちからが消えてった。
さね先輩にとっての、ほかの誰でもない何かになりたかったのに。
だから事故のことは言えないと思っていたし、知られたくなかった。失望されたくなかった。
そんなの杞憂だったね。