よるの数だけ 守ってもらった
あの後、さね先輩はわたしを無理矢理部活に連れていくようなこともなくひとりでグラウンドに戻って、次の記録を狙う隼奈やほかの後輩をいっちょまえに指導していた。
何様だよ、と、鼻の奥がツンとして。
ミナとの約束は結局へたくそな言い訳で無しにして逃げるように学校を出た。
家に帰る途中で何羽か鳥を見たけれど、悠々と飛んでいく姿を見ても、いつもの羽根をへし折りたい気持ちにはならなかった。
夜、部屋からと或る瓶を持って家を忍び出て川に向かった。
しばらく水の音を聴きながらその中身を眺めていると「何、それ」と顔を顰めた如月初雪が登場した。
こんな真夜中になんなんだろう。
明らかに危ういものを持っているわたしを、誰かに言いつけたりしない。噂を流したりもしない。なんで?本当に気色悪い。
「これは最初に殺した鳥の翼。ホルマリンに漬けてみたんだけど、やってみて、べつにコレクションにしたいわけじゃないなあって思って、そうするのはこれだけでやめたんだよね」
生臭い。
生温い。
グロテスクな光景。
だけどべつに、気にならない。むしろ霧が晴れていくような感じ。万引き癖とか薬物漬けとか性犯罪者とか連続殺人犯とかもこんな感じなのかな。あーあ、わたしも、ふつうに犯罪者。悪いことをしている。だけど、なんか、もう止まらなくって。へんなの。