よるの数だけ 守ってもらった
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中学3年になってすぐ、志望校を決めるために誘われた高校が多く出場していた大会を見に行った。
そこで初めてさね先輩のことを見た。
軽やかな助走。
ジャンプする瞬間、出っ張った肩甲骨の皮膚を破って羽根が生えてきたのが見えた。
その羽根は空を舞うことなく畳まれ、柔らかな弧を描きながらマットへ落ちていく。
どうしてまわりのひとより
彼のひとつひとつが特別のように感じるのだろう。
小説やまんがをあまり読まないけれど、もし書くなら彼を主人公にする。
ラブソングを聴くと浮かんでくる。
ハイジャンプしたあと必ず思い出す。
高跳びをしていて良かった。
彼に出会えた。
彼には言えなかったけれど、あの日からの、わたしのひと目惚れだった。
だからわたしもさね先輩にとって特別な何かになりたかっただけ。
無敵でいないとそれにはなれないと思ってたんだ。
──── まあけっきょく見誤っていたのだけれど。