よるの数だけ 守ってもらった
大会まで1週間。
高校3年生にとっては高校生活最後の大会になるけれど、相変わらず部活どころかグラウンドには近づかなかった。
「ねえねえ、そら。隼ちゃん、調子良いみたいだね」
ミナの声が雑音に聞こえ、思わず無視しそうになった。
大きな目が覗き込んできてはっとする。
「あ、うん、そうみたいだね」
「かっこいいよねえ。なんであんなに高くジャンプできるんだろう?あ、でも、やっぱりそらのジャンプが一番綺麗だなって素人ながら思うよ。なんかねえ、脚が、ほかの人とちがうなあって」
「そんなことないよ。脚なんて、べつに、……助走とか重心のかけかたのほうが大事だし。…って、そんなおだててももう跳ばないよ?」
「もったいないなあ。ウチからしたら、何かが特別に優れてるの、すごいうらやましいもん」
べつに、
ミナにそう思われたって。
「テーマは“人の姿”です。席順でふたりひと組になってお互いの絵を描いてください」
美術の先生の言葉にミナが非難するような声を出す。
「さいっっっあく!ミナ、如月となんだけど!」
「ミナかわいそう〜」
「向かい合ったらなんか呪われそうじゃない?」
本人にも当然聞こえるような正直な言葉に同情票が集まっていく。
わたしはどちらに対しても、心底どうでもよかった。
「センセ〜、好きな人とやったほうが楽しいからダメ!?ミナはそらのこと書きたいーっ」
「鳥羽さんは違う人とだから…」
「先生、僕は、ひとりで良いです」
如月初雪の声をクラスメイトたちはきっと久しぶりに聴いただろう。
緊張の混ざった声に呆れてしまう。