よるの数だけ 守ってもらった
このひとが転校してきた日は、この町に何年かぶりの雪が降った日で。
雪の中、傘を持たずに校庭の真ん中に立って「ぬくいね」と笑いかけてきたとき、気色悪いひとだなあと思った。
「自分もサボっているでしょ」
「僕はサボっているけど、鳥羽さんはサボっているんじゃないよね」
わたしはこのひとの、決めつけてくるような台詞がいつも苦手だった。いつもと言うほど話していないのだけれど。
無視をしてベッドへ潜り込むと、すぐに足もとの敷布団が重みで沈んだのがわかった。
「なんで来るの」
「寒いから」
「わたしは、寒くない」
「そう?脚冷えてるけど」
下のほうを見ると何の意味も持っていない手が無遠慮に脚に触れてきていた。
同級生の脚に触ってるんだから目を泳がせるくらいしろっての。
ふたたび無視をして目をつぶると断りもなく隣に寝転がってきたのがわかった。
ベッドは3つもあるのに、図々しいやつだな。
もっと狭くしてやろうとその気配に近くと、ああ、ぬくいな、と、莫迦みたいなことを思った。
しばらくして目を開けると、如月初雪は目蓋を下ろして細かな呼吸を繰り返していた。眠っていない。
切らずに伸びただけの白髪の隙間で、凝固した絵の具を貼り付けられたような濃い隈を隠すように長い睫毛だけが艶やかに揺れる。
気色悪い。
だけれど、気持ち悪くは、ない。
不気味なくらいの引力に抗う間もなく、水分も味気もないくちびるに自分のそれを合わせた。