よるの数だけ 守ってもらった
心底嫌そうな顔が、背中のあたりに響いた。
手入れされていない白髪が肩にかかる。
指先も罅割れていて、逆剥けが皮膚にちくりと刺さった。
まるで隅から死んでるみたいなこのひとが、得意じゃなくて。それでいてすごく、心地が良いのだ。絶対に誰にも言えないけれど。
「─── そらちゃん、考えごとかよ」
「っ…」
何も考えていなかったはず。
だけど、与えられる快楽に集中もできていなかった。
それを咎めるような触れかたに身体が震え出す。
「こら、逃げんな。そーら」
逃げてない、と言い返そうとしたら、昼間のキスが記憶から無くなるような深いくちづけをされる。
整えられた指先が黒いハイソックスを脱がせようとした。
それを慌てて止める。
「さねせんぱい、それは、やだ」
「は?おれ、そらの脚が良いって言ったよな」
「っ、へん、たい…っ」
さね先輩は卒業してから少し前までこの町を出ていたからあの事故を知らない。
知らずに、未だに町のそこらじゅうに貼られたわたしのポスターや写真を目にして、勝手に八つ当たりするみたいに呼び出してくる。
「そら、生意気」
「ん………」
わたしの脚がもう何の価値も持たないことを絶対に知られたくなくて、彼の手を誘導する。
静かな夜。
さね先輩は今日も、わたしに夢を見て、わたしはそれを一身に浴びるの。
あーあ、今すぐに過去へ戻りたい。