幸せなひとときをきみに〜隠れ御曹司の不器用な溺愛〜
麻衣から送られて来た荷物を開けると、部屋着が入っていた。
もう、二年は着ていないはずなのに柔らかくいい匂いがする、洗い直してくれていたのか。

そんな女(ひと)手放せる訳がないだろ




麻衣のマンションに寄るのが日課になってきた、時間を変えて訪問して一週間。
ほぼルーティン化した仕事終わりに麻衣の部屋のインターフォンを押す、そしてがっくりと肩を落として帰る。
その一連の作業のインターフォンを押したところでいつもと違う事が起こった。


「オートロックの番号よく覚えてたね」

声のする方を見ると、やけにおしゃれをした麻衣が立っていた。
「麻衣の誕生日だろ、覚えてるしアレから何度か通ってる、時間が合わなくてやっと会えた」

「あなたと別れてからずっとここには帰って来てなかったから」

「他に男がいるのか?」

「あなたと一緒にしないで、ところで何か用?疲れているから早く部屋に入りたいんだけど」

そう言うと、自分だけ部屋に入ろうとしていたから、慌ててドアを押さえた。
ここで逃がすわけには行かない、どう考えてもあのご令嬢のことを勘違いしているし、おしゃれをしている理由も知りたかった。

「俺の話も聞いて欲しいんだけど」


麻衣は一瞬、隣の部屋から誰か出てこないかを確認してから、逃げられないことを悟ったのか部屋に入れてくれた。

久しぶりに入る麻衣の部屋は記憶にあるものとほとんど変っていなかったが、俺の部屋にもあった様なゴミ袋が置いてあり、中を確認しなくても何が捨てられているのか予測が付いた。

「本気で別れる気なんだな。俺の部屋にもゴミ袋があって結構クルな」


「燃えないゴミ捨ててくれた?あの日は燃えるごみの日だったから出せなかった」

「はぁ」ショックが強すぎて思わずため息が出た。
「捨ててないよ、元の位置に戻しておいた」

「本当の所はどうなんだ?誰か他に好きな奴が出来たのか?」

麻衣はムッとして
「だから、あなたと一緒にしないで!そんなのいるわけないでしょ!だから」

「だから?」

「婚活パーティに行って来たんだから」

はああああ???
なんでいきなり婚活ううう?
ダージリンを一口飲もうと口元に持って行ったが、このまま口に入れれば噴き出しそうで慌ててカップをソーサーに戻したが慌てすぎて派手にこぼしてしまった。

「何やってんの」
麻衣は言うがはやいかタオルを濡らして持ってくるとスーツを拭き始めたが「やりにくいから脱いで」の一言に言われるがままスラックスを脱いで手渡すと,手際良くシミを取っていく。


生活の知恵というか生活ボキャボラがあるところがグッとくるんだよな。麻衣がスラックスの汚れを取っている姿に見とれていると麻衣がいきなりふきだした。
「何だよ」

「だっていつもクールな清太郎が変態みたいだから」

たしかに、ネクタイを締めて背広を身につけているのに下半身はパンツだけとか、これで外に出れば間違い無く捕まるだろう。

「変態って、追い剥ぎをしたのは麻衣だろ」

「追い剥ぎって、失礼ね」

ああああ、くそっ!かわいい。
って、そんなことはいい、聞きたいことがあった。
「で?婚活パーティでは誰かいい奴でもいた?」

「別に、今回は様子見というか準備だから」

よかった・・・
まずはご令嬢についてきちんと話をして誤解を解かなくてはいけない。
「まさかあんな所で会うなんて思わなかった」

「もう、どうでもいいよ」

なんでそんなに投げやりなんだ
「俺はどうでも良くない。あれは強制見合いだったんだ。断るつもりだから敢えて麻衣には伝えなかった。それがあんな形で知られるくらいならキチンと話をすれば良かったと後悔してるよ」


「強制見合い?」

俺はあの場に居た理由を説明していった。

< 26 / 38 >

この作品をシェア

pagetop