幸せなひとときをきみに〜隠れ御曹司の不器用な溺愛〜
土曜日パーティの当日。


やりすぎない程度に念入りにメイクをして少し清楚な雰囲気のベージュのワンピースに紺色のジャケットを羽織り、3㎝ほどのパンプスを履く。
私の身長が165㎝だから、合わせて168㎝になる。
清太郎は180㎝でハイヒールでも並んだ時に彼の方が高かった。
だから、私よりちょっと背がたいくらいの170㎝くらいがいいなと思いこの靴にした。



初めての体験で緊張して会場に入ると係りの人が親切に説明してくれた。

5分ずつ入れ替わりで話をする。

思えば、特に趣味もなく過ごしてきた。
何を話せばいいのかわからないが5分と言う時間が短く感じる人、長く感じる人がいてどちらがいいのかもわからない。

短く感じられる人は話が上手で慣れているが、それは付き合った後でも誰とでも仲良くなれると言う意味じゃないかとか、彼とのことですっかり疑心暗鬼になってしまった。
とはいえ、清太郎はぶっきらぼうでイマイチ言葉が足りないから、話の流れから会話補正をしていた。

フリータイムでは数人の人に話をかけられたが、誰か一人に決めることができず用紙には誰も記入することなく退出しようとしたら、係りの人に声をかけられた。

「気になる方はいませんでしたか?焦ることはありませんからまた参加してください。ちなみに、天雲さんを指名された方が数名いらっしゃったんですよ」

「なんだか、緊張して雰囲気に飲まれてしまいました。次回は素敵な人に出会えたらいいなって思います」

そう言って会場の外に出ると背後から「すみません」と声をかけられた。

振り返ると自分より年下のように見える爽やかな青年が走り寄ってきた。

「あの天雲さん」

パーティの出席者だろうか?苗字で呼び止められてなんとなく違和感を感じて首を傾げているとその青年はニッコリと微笑んで
「企画部の天雲さんですよね、僕は営業促進部の中島透といいます」

やだ、同じ会社・・・

「天雲さん成立しなかったんですね、ちょっとほっとしました」

「え?」

「あっ、すみません失礼ですよね。そうじゃなくて、天雲さん会社では高嶺の花だからここで会えたのに誰かにさらわれなくて良かったと言うか。本当はよくないと思うんですがこの後、少しでいいから話をすることはできませんか?お願いします」

高嶺の花って、お世辞でもちょっと嬉しいかも。

必死な感じが可愛いし好感が持てたのでコーヒーを一杯だけ付き合う事にした。

「27歳ってまだまだじゃない?」

「はやく家族が欲しいんです」

「年だけ見ると警戒されそうね、中島くんイケメンなのに、なんとなく婚活パーティと恋活パーティを間違えてきちゃった的な」

「そんなこと言ったら天雲さんだってフリーだと思わなかったです。知ってたらパーティなんか出ないで会社で落としにいきました」


落とす・・・

いや、でもきっとたくさんの子が中島くんの名前を書いたんだろう、中島はどうしたんだろう?
中島くんは間違いなく5分があっという間に終わってしまうタイプだ。
と言うことは、あっという間に終わった人の一人だったんだ。どんな話をしたんだろう?イッパイイッパイで顔なんか見てなかったしほとんど記憶がない、こんなんじゃ婚活がうまくいくとは思えない。
ずっと清太郎だけだったから恋の始め方をすっかり忘れてしまった。

それとも、結婚に恋は不要なのかな・・・


「踏み込んだことを聞いていい?」

「なんでも聞いてください」

「どうしてはやく家族が欲しいの?」

「僕、両親がいないんです。一昨年事故で二人とも逝ってしまって。喪があけたとたんだれか家族がほしくなったんです。天雲さんはさっきのパーティで誰かの名前を書いたんですか?」

「よくわからなくて書いてない」

「僕は天雲さんの名前を書きました。天雲さんが他の人の名前を書いてなくてよかった。よかったら、LINEの交換をお願いしてもいいですか?」

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