あの春を、もう一度。
両手の親指と人差し指でカメラを模した長方形を作り、目の前に掲げる。

先輩は視線で指の間を覗くように言い、私の目線の高さまで手を調整する。先輩と私はその枠の半分ずつを一緒に覗き込む。

フレームに収まっているのは、桜の木。

逆にそれ以外なにがあるんだと言うくらいに、ここには桜しかないのだけど。

1つ他の木と違うのが、並木道の最後の桜だということ。少し映り込んだ分岐路が、私達が別れるポイント。

「春野だったら、この写真にどんなタイトルつける?」
「私だったら…」

普段だったらじっくり思案しているところ。

だけど、今日は不思議とすぐに言葉が浮かんできた。

あぁ、これだ、って直感的に感じたんだ。

「“青春”ですね」

先輩は意外そうに目を瞬かせる。

「桜は春の花だから?」

先輩らしい単純で純粋な解釈に、微笑んで首を振る。

「そうじゃなくって…」

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