あの春を、もう一度。
『新入部員が全然来ないのは、こんな目立たない部室のせいだ!』
去年の春、入部希望の1年生が1人として訪ねてこないことでわめいた先輩が、いきなり毛筆でリニューアルした部の表札。
あの時はまだ、今日まで1年もタイムリミットがあったことが信じられない。
結局、新表札の効果は得られないまま、部長が力技で3人も引っ張り出してきてくれたんだったな。
先輩のなんとも言えない複雑な表情がフラッシュバックし、ぷっと小さく吹き出す。
今となっては、あんな些細なことさえも、ひどく恋しい宝物。
そっとノブに手をかけ、立て付けの悪いドアを引く。
「先輩、」
愛おしくてたまらない、背中に声をかける。
あと何回、こうして先輩を呼べるのだろう。