あの春を、もう一度。
むーっと横目で先輩を睨む。

先輩はむくれる私の頭をわしゃわしゃと撫で回して、目を細める。

それから勢いよく立ち上がり、大きく伸びをして深呼吸する。

ふー、と長く息をついた後、よしっ、と決意を固めたように拳を握る。

「行くか!」
「…ですね」

部室を出る時、先輩はぐるりと辺りを見渡した。まるで、3年間の思い出を両目に焼き付けるかのように。

それから『写真部!!』と記された模造紙に目を留める。

「なぁ、春野…」

私は名前を呼ばれて先輩を仰ぐ。

「よろしくな」

主語とか修飾語とか、色々足らなさすぎるけれど。

私には十分すぎた。

写真部への愛情が、情熱が、伝わったから。

「もちろんですよ。誰に言ってるんですか」
「ふはっ。そーだな」

先輩はもう一度、部室に向き直ると長く長い、深く深く頭を下げる。

「ありがとーございましたぁあ!」

運動部顔負けの大声量と威勢に紛れて、私もぺこりと会釈する。

夏は冷房代わりの扇風機さえも不調だし、冬は底冷えするかなりの欠陥部室。

この扉の向こうで、あの笑顔が咲くことはもう絶対にないけれど。先輩との思い出がこれ以上増えることはありえないけれど。


かけがけのない2年間を、ありがとうございました。




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