俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
 カリッドは後ろから手を伸ばして、モニカにオペラグラスを渡した。モニカはそれをちょっと悩んでから受け取ると、オペラグラスを使って舞台の方を覗く。

「うわ、すごいです。こんなに大きく見えるんですね」
 膝の上ではしゃぐモニカの姿を見て、カリッドの顔からも自然と笑みがこぼれた。これこそまさしくデートでは、と。この流れならいけるんじゃないか、と。

「モニカ」

 カリッドに名を呼ばれたモニカは、オペラグラスを外し、ゆっくりと彼の方に振り返った。するといきなりカリッドにその顎を掴まれる。逃げないように動かないように、しっかりと固定された。その後の展開は、間違いなくカリッドの顔が迫ってくるもので。

 気づいたら、カリッドの唇とモニカの唇は重なり合っていた。わかっていたことではあるけれど、突然のことにやはり驚いて目を見開いてしまう。モニカの唇は、カリッドのその唇ではむはむと覆われていたのだが、何やらざらりとした感覚のものが口の中を狙って侵入しようと試みていることに気付いた。間違いなくカリッドの舌。
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