俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
 モニカは笑いたくなるのを堪えていた。もう、カリッドが可愛すぎて仕方ない。

「その。リディさえよければ、抱いてください」
 とモニカから言われてしまったら、カリッド自身もどう答えたらいいかがわからない。これはもう先っちょどころの話ではないぞ、ということだけは理解できた。

「もしかして、はしたないと思われましたか?」

 違う、という意味を込めてカリッドはぶんぶんと首を横に振る。

「俺で、本当にいいのか?」

「は、はい。リディがいいです。実はその、私も……」
 と、男性不信に陥った過去を、モニカがぽつりぽつりと話し始めた。「女じゃねー」とか「かわいくねー」とか。挙句、ちょっとした縁があって、婚約をどうかと勧められた少年と出会ったときも「無理だ」と精神的に拒否されてしまった話とか。それで深く傷ついたモニカに無理に結婚を勧めるようなことをしない両親の話とか。

「そうか。でも俺にとっては、モニカだけだ。そうやって結婚したいと思ったのも、抱きたいと思ったのも。そう思えた女性は君が初めてだ」
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