俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
 次の日。
 一昨日、カリッドに連れていかれた例のお店でドレスというものを着せられ、髪の毛もきれいに結い上げられたモニカは、自分でも目を疑うほどの別人のようになっていた。

「ああ、やはり。私が見立てた通りですわ」
 と誰よりも満足しているのは、この店の店員かもしれない。
 モニカは鏡に映る自身の全身を舐めるように眺めては、そこから視線を外すことができなかった。一体、この鏡に映っている人物は誰、と。

「モニカ。準備はできたか?」
 名を呼ばれ、くるりと振り返ると、そこには正装したカリッドの姿が。
 いつもの騎士服とも違い、昨日までの平服までも違い、ぴりっとした正装。それはもうどちらの王子様ですか、と聞きたくなるくらいの。

「行くぞ」
 有無を言わさぬ圧をかけてきたその言葉に、モニカは彼の手を取る。

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