俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
 馬車はその王宮がある敷地内に難なく入り、それでも奥へと進んでいく。止まった場所は。

「俺の両親はここに住んでる」

「ここ?」
 王宮の離れにある宮、つまり離宮なのだが。ここに住んでいるような人物と言えば、前国王夫妻しか思い浮かばない。背筋に悪寒が走るというのは、こういう状況を指すのだろうか。よくわからない嫌な感覚が、背骨に沿って上から下へと駆け抜けた。
 よくわからないままカリッドに連れていかれた場所にいた人物は、間違いなく前国王夫妻だった。

「久しいな、カリッド」

「ご無沙汰しております、父上、母上。こちらが今、私が結婚を考えている女性、モニカ・ルコティ」
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