俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
「あ」とモニカは声をあげて、カリッドを見た。カリッドも「う」と声をあげる。

 それはお互いにお互いを思い出したという合図。

「あのときの男の子が、リディ? 私に向かって生理的に無理と言っていたあの男の子が?」
 ジロリとモニカはカリッドを睨んだ。
「私があの一言でどれだけ傷ついたと思っているんですか」
 目の前にカリッドの両親がいることも忘れて、モニカは声を荒げてしまった。
 モニカのその言葉に、ぐるりとカリッドも過去の記憶を掘り起こす。そんなことがあったかということを必死になって思い出す。昨日、モニカからもそんな話を聞かされたから、彼女にそういうことが起こったということを知ってはいたが、まさかその相手が自分だったとは、もちろん昨日もそう思っていなかったわけで。

「す、すまない」
 と謝りながら、カリッドは必死で思い出す。婚約の話は子供の時から多々あった。だがあれ以降、女性に興味を持てなくなったというか女性が怖くなったカリッドは、その話を片っ端から断っていた。そういった話がきたら、会うこともせずに片っ端から。
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