俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
 こうやっていいところのお坊ちゃんでなかったら、鼻水垂らして鼻くそをほじっているような年頃の男の子。いきなり閨教育と言われても、ピンとくるわけがない。

「うん、わかった」
 と、子供らしく返事をして、その場をやり過ごしたカリッド。
だがしかし。適当に返事をしてしまったことを後悔する日がやってくるとは露知らない十一歳のカリッドなのである。

 閨教育の講師として表れたのは、魔女のような女性だった。講師は母親と同じくらいの年齢であると聞いていたのに、そこにいるのはどこからどう見ても二十代前半の女性。
 魔女だ、と思った。大好きな物語に出てくる、若返りの魔法を使う魔女。

「カリッド様、私がカリッド様の閨教育を担当させていただきますドーランと言います。どうぞ、わからないことがあれば遠慮なくお聞きくださいね」

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