俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
 イアンはもう一度ため息をついた。息子が息子なら、親も親、という気持ちがどこかにあった。昔から仕えてきている主だから、よくわかる。

「どうしたらいい?」

 そう尋ねるカリッドは情けない顔をしていたと思う。なぜなら、イアンが今度こそ盛大にため息をついたからだ。

「ご自分でお考えください、と言いたいところでありますが。それがきっかけでカリッド様の望まぬ結果になられても困りますからね。まして、この団を退くことになるとか。それでは、騎士団の皆様にもご迷惑をおかけしてしまいます。円満に結婚をしていただいて、それなりにここの団長を務めていただくのが、何よりでございますね」
 そこでイアンはくいっと右手の人差し指で眼鏡を押し上げた。
「モニカ殿に恋人役を頼んだ手前、彼女と恋人らしい振舞をなされたらいかがでしょうか。不自然さから偽物の恋人であるとばれてしまったら、元も子もないでしょう」

 恋人らしい振舞。
 その言葉がさらに、カリッドを悩ませる羽目になった。

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