俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
 護衛の男は深く頭を下げる。

「カリッド様。本日は、もうお休みになられますか?」

「たくさん勉強して、疲れたから、寝る」

「そうですか」
 護衛の男の一人が、カリッドの世話係、つまりばあやを呼びに行く。

 こうしてカリッドの閨教育の一日目は無事に終わった、と思っているのは少年の無垢な心を持ち合わせているカリッドであり、どうやら周囲の者はそうとは思っていないようだった。

 一夜明けると、カリッドにとってはいつもの日常が始まる。朝食は忙しい家族が集まる貴重な時間。カリッドより七つも年上の兄は学院を卒業したばかりであるが、父の跡を継ぐ者として仕事を手伝っている。
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