俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
 閨教育という言葉を耳にした母親は、その次にどのような言葉が続くのかと思ってドキリと思ったが、子供らしい言葉が続いたため安心する。この幼い娘にも聞かせても良い話であると判断したためだ。

「そうよ、カリッドもイリナも、このお腹の中にいたのよ。カリッドは覚えていないかしら? イリナがお腹の中にいたときには、一生懸命話しかけていたのよ?」

「そうなんですか。覚えていません、そんなこと」
 そう言われてなぜか急に恥ずかしくなったカリッド。顔中を真っ赤に染め上げるとぶんぶんと首がもぎ取れるのではないかと思うほど振ってしまった。それを見た母親は、うふふと楽しそうに見ている。

「イリナはお母さまのお腹の中にいたことを覚えています。とっても暗くて狭かったけど、カリッドお兄さまの声が聞こえたので、寂しくありませんでした」

「まあ」
 母親は妹の頭を嬉しそうに撫でる。

< 154 / 177 >

この作品をシェア

pagetop