俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
「あのドーランという女性ですが、やはり当初予定されていた講師とは異なる方でした。今は、こちらの方で拘束しておりますので」
 と、口にする護衛の男だが、あのドーランには屈強な男性騎士、しかも独身恋人無し、を三人置いてきたので、お相手してもらうことにしようと思っていた。どちらが食べられてしまった側になったのか、というところまではカリッドに伝えるつもりもない。そして、なぜ講師が変更になったかは、関係者を吊るしあげて尋問するしかない。これもカリッドの耳に入れるような内容で無いということも、この男は知っている。

「カリッド様」

 男は優しく声をかけるが、丸くなっているカリッドはピクリとも動かなかった。
ばあやを呼びますか、と護衛の男が柔らかく声をかけるがそれも断られてしまう。そして、搾り出された言葉は。
「女は嫌だ」
 つまり、侍女やメイドたちに世話をされたくない、ということだろう。

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