俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
「カリッド様。私ならよろしいでしょうか」
 護衛の男がもう一度優しく声をかけると、頼む、という小さな声が聞こえてきたため、カリッドの着替えを手伝い、そして寝台で寝付くまで側にいた。

 もちろん、今回の件はすぐさま関係者の耳に入ることになる。それと同時に、カリッドが女性の使用人を拒むようになったため、使用人たちの仕事の変更も発生した。カリッド付きの侍女たちは理由も知らされずに配置換えされたわけで、もちろん不平を並べる者もいた。だが、その配置換えの理由はけして誰も口にはしなかった。それだけ、カリッドが心に受けた傷というものが深かったのだ。

 そして、このカリッドの状況に頭を悩ませはじめたのがカリッドの両親である。カリッドの婚約者もいい加減決める必要があると思っていた矢先の出来事。女性は嫌だと言っているようなカリッドに無理矢理婚約者を、というのも酷だろうと思い、当分の間はその件に触れることはやめることになった。

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