俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
 だがいつまでもそうやって婚約者問題から逃げていることもできない。カリッドもそこそこ立場ある人間なのだ。学院に入学し女子生徒との交流も増えた時期ならば、それとなくそれっぽい女性に会ってくれるのではないかということを期待した両親。さりげなくカリッドに伝えると「嫌だ」という回答。
 無理強いは良くないと思ってはいるが、いつまでもこのままというわけでにはいかないだろう。そのうちあそこの次男は女性に興味が無い、むしろ男性に興味があるのではないか、という噂が立たないともかぎらないわけで。


「カリッド。お前の相手にふさわしい女性を見つけてきた」
 いつもは穏やかな父親であるが、今日の口調はきつい。しかし「女性」という単語にカリッドは顔をしかめたくなる。最近、この両親はカリッドの顔を見るたびに「婚約者を」と言いたそうなのだ。それを察するとカリッドはすぐさま「逃げる」を発動するようになっていたのだが、今回、逃げられなかったのは貴重な朝の団らんの時間に言われてしまったから。

「まあ、カリッドお兄さまにふさわしい女性ですか。それは私も楽しみです」

< 161 / 177 >

この作品をシェア

pagetop