俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
 ザカリーの言うあのような女性というのは、数年程前の閨教育の女性のことを指している。
 あれ以降、カリッドは女性と二人きりになることはできない。学院にいるときも、この国の宰相補佐官の息子でありカリッドの同級でもあるイアンが必ず近くにいる。だから一部の女性からは、あの二人ってもしかして、という噂を立てられているとかいないとか。実はこの噂もカリッドの父親と兄の耳にも入っていた。だからといってカリッドからイアンを取り上げることはできない。女性不信をこじらせて人間不信にまで陥ってしまったら手のつけどころがないと判断したからだ。だったら、婚約者をあてがってしまおうという発想に至った父親。

「わかりました。兄上がそこまでおっしゃるのであれば、会ってみます」

 という一言で、ここにいた両親と兄が安堵のため息を漏らすと同時に、妹だけは瞳をキラキラと輝かせていた。

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