俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ

　カリッドの婚約者候補として名を挙げられた女性は、地方に住むリヴァージュの民の長の娘であった。リヴァージュの民は狩猟と染物で生計を立てている民だ。その長の娘が弓の腕に秀でており、同年代では彼女の腕に適うような者はいないとされている。そもそもリヴァージュの民は、女性は染物を行い、男性が狩猟を行うとされている。その中で男にも引けを取らない弓の腕前というところに興味を持ちつつ、さらに父親からは「男の子のような女の子」と言われていたため、それならばという期待がどこかにあった。

　あまり王都から出たことのないカリッドにとって、リヴァージュの村を訪れるのは初めてのことだった。華やかな王都とは違い、その村はどこか質素な感じがした。だが、人々は活気に溢れている。それに伝統を重んじるということだけあって、衣装がまた独創的でありながらも機能的であるという印象も受けた。
　父親とリヴァージュの長が幾言か言葉を交わしている。そして、その長の後ろから姿を現したのは、真っ黒に日焼けした女の子。この民の女性の肌は白いと聞いていた。それは屋内で染物をしているから。だけど、現れたのは長と同じように真っ黒に日焼けをした女の子だった。