俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
「こちらが、娘のモニカだ。私と一緒に狩猟に出ているから、このように日焼けしてしまっているが、一応は女だ」
 ガハハと豪快に長は笑った。

 一応は女、と紹介された目の前の少女だが、カリッドから見たらどこからどう見ても女だった。彼女は凛々しい声で名乗った。だけど、やはりその声は少女のそれだった。

「握手でもしたらどうだ?」
 父親が優しく微笑みながらカリッドを見下ろしているが、女性に触れることなどできない。

「無理だ……」
 カリッドのその呟きに、目の前の少女の表情が一変した。怒りそうな泣きそうな表情。

「カリッド」
 父親に鋭く名を呼ばれたが、その後のことは覚えていない。

「無理だ……」
 だって、彼女はどこからどう見ても女性だった。自分とは違う性別の人間。
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