俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
 こんな小さなモニカのお腹の中に、一人の人間がいることが不思議で仕方なかった。

「そうよ。もう、動きが激しくて」

 今ならあのとき母親の言っていた言葉の意味がわかるような気がした。

『そういう相手と出会ったときに、きっとそう思うようになるわ』

 初めて彼女を見た時に、身体の中にびりりと落雷のような光が走った。男の子のような女の子ではなく、彼女はどこからどう見ても女の子で、それは今まで受けた衝撃とは違うものだった。触れたら壊れてしまうのではないか、と。
 結局あの後、その縁談も流れてしまった。彼女の方があの長に泣きついた、とか。
 カリッドが父親から聞いた話によると、彼女もカリッド同様、異性に対する嫌悪感が強い女性だったらしい。酷いことをしてしまったかもしれない、という気持ちがあると同時に、これでよかったのかもしれないとカリッドは思っていた。あのままでは自分は彼女を壊すかもしれないと思っていたから。触れたら壊れる、そんな可憐な少女だったのだ。

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