俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
 だから気付かなかった。十数年の時を経て、彼女が自分の目の前に現れたことに。身体は小柄なのに、弓の腕に長けている部下だった。リヴァージュの民だと言う。彼女の弓を射る姿は美しかった。そして、任務にも真面目に取り組む姿に心が奪われた。この気持ちを何と呼ぶのかはわからない。だけど、彼女が気になって仕方なかった。
 部下であるイアンに何度相談しようかと思ったが、それもできなかった。
 と、その時に両親からの手紙。内容は簡単、要約すれば「いい加減、見合いをして結婚をしろ」ということ。

 想いを寄せる女性と結婚できないのであれば、一生結婚しなくてもいいと思っていた。特に、このような無理やりの結婚は絶対に嫌だった。心の奥でどこかにある女性に対する恐怖心。それが再燃しかけていた。
 だから、思い切って彼女に頼んだのだ。

「モニカ、君には俺の恋人のフリをしてほしい」

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