俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
 カリッドと結婚したモニカであるが、その後、第四騎士団から第一騎士団に異動になったカリッドと共に彼女も異動していた。カリッドは今、兄、ザカリー国王陛下の近衛隊長として職に就いている。モニカは第一騎士団の護衛騎士隊として任務に携わっているのだが、その弓の腕を生かして少し離れた場所から対象者を見守るという役だった。しかも、ここであのマルセルの魔導弓が生かされている。マルセルの魔導弓は、射た矢が自動的に射手に戻ってくる性質を持つ。離れた場所から不審者を見つければ、それを捉えて確実に射る。それがモニカに与えられた任務でもある。

 そのマルセルの魔導弓であるが、カリッドがモニカに婚約指輪ではなくそれを渡して求婚をしたというのは、この王都では有名な話になっていた。あのカリッドが婚約をした、というだけでさえ関係者をざわつかせた話題であるというのに。
 さらにその相手があのリヴァージュの長の娘であったことが、彼のマルセルの魔導弓での求婚は妥当なのではないかという話になって、そしてそれが実しやかに一部で広まっていたようだ。
 だからこそ、あれが特別報酬であったことは、今でもモニカの心の中に秘められている。

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