俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
「口づけ、だな。恋人同士なのだから、当たり前だろう。それに、俺を団長と呼ぶたび口づけをすると言っていたはずだ。残り、三回あるから、覚悟しとけ」

 当たり前なのか、とモニカは頭を抱えたくなった。

「口づけもしない関係であったら、俺の両親に君が偽物の恋人であることがばれてしまう。だから、君が俺のことを団長と呼ぶたびに、俺は君に口づけをする。まあ、練習だと思ってくれ」

 口づけの練習って、何なの? というモニカの心の声は残念ながらカリッドには届かない。
 そして、そうやって口づけをする口実を得たカリッドの心の中は、小さな妖精たちがひらひらと舞い踊っている気分だった。
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