俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ

4.

 これだけ近くに座られていたら、心臓の音が聞こえるのではないかとモニカは思っていた。突然の口づけ、そしてカリッドのことを愛称で呼ぶこと。モニカの頭の中はぐるぐるとしていて、そして心臓もどきどきと早鐘のように打ち付けている。

「そうだ、モニカ。君の服を買いに行く」

「え? 服ですか?」

「そうだ。君はドレスを持っているのか?」

「持っていません」
 やっぱり、ドレスが必要だったのか、とモニカは思った。
「そもそも、ドレスというものを持っておりません。何しろ、着る必要がありませんから」

 モニカの両親は、地方のとある部族の血を引く民だ。そしてその部族の村に住んでいる。さらにその部族は伝統を重んじているし、それもこの国が認めてもいる。
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