俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
 このセクハラという言葉も異世界からの迷い人が伝えた言葉とされている。

「セクハラ」

「任務上、必要なことだ。断じて、セクハラではない」

 と焦って言い訳しているところが怪しい。モニカはじとーっとカリッドを睨んだ。それでもカリッドは怯むことなく、すっと立ち上がると手を差し出してくる。

「なんですか、この手。仲直りの握手ですか」
 モニカはカリッドが差し出してきた手を、ぺしっと叩いてみた。彼の行為に対するささやかな抵抗のつもり。

「違う。出かけるから、俺のこの手を取れ、という意味だ。何しろ、その、俺たちは恋人同士だからな」
 恋人同士、というところで彼の声がやや小さくなったような気がしないでもない。それでもモニカは再びじとーっと彼を見上げる。

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