俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
「安心しろ。賊はこんな昼間から堂々と襲ってきたりはしない」

 安心しろ、と言われても、なぜか安心できないモニカだった。
 右手を拘束されたまま連れていかれた場所は、これまた見るからに高級なお店だった。建物の外までそれがプンプンと匂ってくる。さて、このお店に入るのにこんな格好でよかったのだろうか、とさえモニカは思えてくる。だが、カリッドも似たような格好だ。

 カランカランとベルを鳴らしてその扉を開けると。

「お待ちしておりました、カリッド様」

 カリッドの姿を見た店員が、すぐさまそう声をかけてくる。思わずモニカは拘束されていた手に力を入れてしまった。

「彼女のドレスを頼んでいたはずだが」

「はい、準備はできております。どうぞ、こちらに」

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