俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
「あの……、団長……あっ」
 周囲に誰もいないことから、モニカは一気に気が緩んだ。

「モニカ、君はそんなに俺と口づけがしたいのか? これで五回だな。一回引いて、残り四回。寝るとき、覚悟しとけよ」

「なんで、寝るときなんですか」

「寝る前には口づけを、と決まっているじゃないか」
 と、自分で口にしているカリッドではあるが、内心はめちゃくちゃ焦っていた。寝る前に口づけをして、口づけだけで自分の気持ちが済ませられるのかという不安。
 もしかして、その先にまで進んじゃったりして、という淡い期待が無きにしも非ず。

「そんなこと、聞いたことありません」
 というモニカの声が、カリッドを現実へと引き戻した。
< 46 / 177 >

この作品をシェア

pagetop