俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
「言っただろう? これは特別任務だ。だから必要経費として落とされる。君が気にする必要は無い」

「あ、そっか……」
 必要経費、という言葉でモニカは安心した。そうだった、これは任務なのだ。
 だけど、ときどき任務なのかただのデートなのか、と混乱してしまうのは、カリッドがいつものカリッドらしくないからだろう。

 ちなみにカリッドが口にした必要経費であるが、これは騎士団の必要経費として計上されるわけではない。カリッド個人管理の資産から差っ引かれる必要経費だ。接待交際費として計上するのが妥当だろうと思っている。領収書をイアンに預けると、彼がうまいこと処理してくれるはずだ。

「では、いただこうか」
 カリッドが食前酒のグラスを手にしたので、やっと「待て」が「オッケー」になった気分になったモニカ。
 グラスを一気にくいっと傾けると、程よい刺激が喉元を通り過ぎていった。

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