俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
「え?」
 なぜかモニカは罠にはめられた気分になった。

 食事を終えると、またあの高級なお宿へと戻る。
 行きは右手拘束だけだったモニカなのだが、帰りは右腕拘束という、さらに拘束度があがってしまった。つまり、カリッドと腕を組んで歩いている、ということ。手を繋ぐよりも密着度が高い。

 これに困惑しているのはモニカだけではない。むしろカリッドの方が動揺している。

「帰りは腕を組んで帰る。俺のここに、モニカ、君の腕を絡ませてみろ」
 と命令をしたカリッドではあるが、そうやって腕を組んで歩いているときに気付いてしまったのだ。自分の腕が彼女の胸に微かに当たっている、ということに。柔らかくてふんわりとした感触が腕に伝わってくる。
 カリッドは超絶焦っていた。結婚したくないという理由で、女性との出会いからわざと逃げていたためかもしれない。とにかく、カリッドのヤツがむくむくと反応してしまうのだ。今、そうやって女性から逃げていたことを激しく後悔している。

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