俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
 第四騎士団は、五つの部隊から成っている。各部隊は約二十名前後で構成され、交代で休みを取り、約七割の人員で任務につくようにしていた。
 それはカリッドが団長に就任してから取り入れたシフト制であり、この地方勤務という精神的な圧力をかけられるような環境にいるから考えたものだ。
 女性騎士は、各部隊に最低一人は配属するようにした。一部では女性を一か所に集めた方がいいのではないか、という意見もあがったのだが、女性が必要とされる場面に遭遇した時、すぐに女性騎士を派遣できないのは不便である、という理由でカリッドの意見が通った。

 そしてモニカは第五部隊の所属。弓の能力に長けているのは、リヴァージュの民だからというのも理由の一つ。あそこは、狩猟の部族である。
 恐らく、彼女も幼い頃から弓を射て、獲物を捕らえていたのだろう。だから余計に、彼女にとってマルセルの魔導弓というものは魅力的な報酬なのだ。

「あ」
 モニカは腕を拘束されて歩くことに慣れていなかった。相手と歩調を合わせ、そしてその腕を掴んでいるため、適度な距離を保ちながら歩かなければならない。これがなかなか難しい。だから、見事に足を引っかけてしまった。

 前のめりになるモニカを、すかさずカリッドは空いている手を出し、その倒れそうになる彼女の身体を前から支えた。前から支えたから、がっつりとその手の平で触れてしまった。
 彼女のその豊かな胸に。
 罠にはめられたのは、カリッドの方なのかもしれない。
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