俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
 カリッドが準備したわけではない。イアンだ。むしろイアンに無理やり押し付けられた、が正解。

「いいか、きちんと鍵をかけるんだぞ」
 しつこく念を押して、カリッドは部屋を出た。
 そして、逃げるようにイアンの部屋の扉を叩く。

「おい、イアン。俺だ。開けろ」

「どうかされましたか、カリッド様」

 イアンのことだ。恐らくのんびりと読書でもしていたのだろう。主のお守りから解放された貴重な自由時間だと思って。

「どうもこうもない。どうしたらいいかがわからん」
 どさっとカリッドはソファに腰をおろした。両手でその顔を覆う。

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