俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
「それで。どこまでいかれたのですか? この宿を出るときには手を繋いでおりましたよね」

「とりあえず、ドレスを合わせて食事をしてきた」

「ではなくて、ですね」
 そこでイアンはカリッドの前にお茶を置き、彼の向かい側へと座る。この話は長くなりそうだ。
「手を繋ぐ先まではいかれたのですか?」

「く、口づけまでなら……」
 と答えるも、カリッドは顔を手で覆っている。
「モニカが俺を団長と呼んだら、口づけを一回すると、言ってしまった」

 イアンは眼鏡をくいっと押し上げた。なんと、この主が想い人と口づけまで交わすとは、あの短時間でなかなかやるではないか、と感心してしまう。だが、そのペナルティのような言い方はどうなのだろう。それでもこの主がそれなりに考えた結果なのだろうな、とは思うのだが。

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