俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
「わ、わかった。無理やりじゃなければ、いいんだな」

 本当に大丈夫か、と思いながらイアンは主を見た。

「とにかく、モニカ殿には明後日の顔合わせまで逃げられないように捕まえておかねばなりません。それが、あなた様が変に手を出してしまって、その恋人役を降りると彼女から言われたらどうなさるおつもりですか? どうでもいい女性とお見合いをして、好きでもない女性と結婚をしなければならなくなるのですよ。それでいいのですか? 何のために今まで童貞を守ってきたのですか?」

「な、お、お前。最後の一言は余計だ」

 余計なイアンの一言で暴露されてしまったカリッド童貞説だが、童貞というか否かが微妙なラインであった。
 精通を迎えた頃、閨教育を受けたカリッドではあるが、その講師に貞操を奪われそうになった。ほんの先っちょだけ。だが、当時はまだ精神的にも幼いとき。しかも相手は閨教育の講師の妖艶な美魔女。嫌がるカリッドに無理矢理襲い掛かり、というところに助けが現れた。なので、かろうじて先っちょだけ。それは美魔女講師の行き過ぎた教育だった。だから、カリッドの叫び声を聞いた護衛たちがすぐさま飛んできた。その護衛たちが美魔女に食べられてしまったかどうかは、カリッドの知らないところである。
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