俺の恋人のフリをしてほしいと上司から頼まれたので「それは新手のパワハラですか」と尋ねてみたところ
「か、かわいい……」
 思わず口から零れ出てきたその言葉。
 風呂上がりのモニカは、格別な色気を放っていた。恐らくモニカ本人はそれに気付いていない。少し濡れそぼった髪、温まって仄かに色づいている頬、艶々の唇。そして、ガウンの合わせから少し見えてしまった豊かな膨らみの麓。
 先ほど沈めたカリッドのヤツだけど、むくむくと元気になってきてしまうのはモニカのせいだ。我慢できない、だけどイアンの言葉が頭の中で響いている。
 ここで彼女に逃げられてしまったら、好きでもない女性と結婚させられてしまう、ということ。
 あわよくば、モニカとあんなことやこんなことをした挙句、彼女に告白して結婚までもっていこうとしているカリッドにとって、好きでもないどうでもいい女性との縁談というのは、それの障害にしかならない。

 とりあえずこの浴室でヤツを鎮め、あとは冷静を装うしかないな、とカリッドはため息をついた。

 なんとか平静を取り戻したカリッドが部屋に戻ると、モニカはゆったりとソファに座って本を読んでいた。

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